1. 序論(イントロ)
子どもが幼児から小学生に成長するにつれて、色を識別する機会が増え、色覚異常が発見されることがあります。
ただし、その障害の程度は人によって異なり、社会生活に支障を感じる場合もあれば、検査で指摘されるまで気付かないケースも多くあります。
先天性の色覚異常は主に男の子に多く見られ、日本人男性の約5%、女性では0.2%が該当します。
これは国内で約300万人以上と推定され、決して稀なものではありません。
たとえば、日本人のAB型血液型と同じ程度の頻度です。
色覚異常は遺伝的な影響が大きいため、本人からみた兄弟、もしくは姉妹の息子(甥)、娘の息子(孫)などに発症することがあります。
家族全体で色覚異常に対する理解を深めることが大切です。
2. 色覚異常と色盲の違い
かつて「色盲」という言葉が使われていましたが、現在では「色覚異常」という医学的な用語が一般的です。
大多数の色覚異常は軽度から中等度で、完全に色が見えなくなることは少なく、日常生活に大きな支障をきたすこともほとんどありません。
最も一般的な色覚異常
- 赤緑色覚異常:赤と緑の区別がつきにくくなる最も一般的な色覚異常です。
- 青黄色覚異常:青と黄色の区別が困難になるケースもありますが、その頻度は低めです。
3. 色覚異常の見え方と代償能力
実際にどう見えているのか?
色覚異常を持つ子どもがどのように色を見ているのかは、色覚正常な人には想像しにくいものです。
間違えやすいものの例
- 赤と緑:信号機やトマトの色、クリスマスの飾り。
- 青と紫:花や洋服の色。
- ピンクと灰色:特に淡い色の区別が難しいことがあります。
重症度による見え方の違い
軽度の色覚異常では、日常生活にほとんど影響はありませんが、色の違いが少しわかりにくい程度です。
夕方や暗い場所では、特に赤と緑の区別が難しくなることがあります。信号機や果物の色が見分けにくくなることもあります。
特に、LED(発光ダイオード)の色やパソコンの画面は、色覚異常者にとって見分けが難しいことがあります。たとえば、電化製品の状態を表す赤、オレンジ、黄色、緑のLEDは、中等度以上の色覚異常者にとってほとんど同じ色に見えることがあります。
ただし、LEDが点滅している場合(充電中)や点灯している場合(充電完了)などの動作の違いで判断できることもあります。
4. 学校生活でのサポート
学校での具体的な配慮
色覚異常の子どもが学校で困る場面が出てくることがあります。
特に図工や理科の授業で色を使う場面では、教師との連携が重要です。
色以外の情報を活用する工夫が求められます。
教科書や教材の工夫
最近の教科書は、色覚異常に配慮したデザインが進んでおり、色以外の形や模様で情報を伝える教材が増えています。
家庭でも、こうした教材を活用することで、子どもが色覚に頼らずに学習を進められるようサポートできます。
5. 色覚検査
色覚の検査方法
先天性の色覚異常は進行することがないため、定期的な検査は不要ですが、異常の程度やどの色を誤認しやすいかを知るために検査が有効です。
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仮性同色表(色覚検査表)
石原表を使って、色のモザイクから数字や記号を読み取る検査です。小学4年生の時期に多く行われています。 -
パネルD-15
色覚異常の程度を測るため、基準となる色に近いものを並べる検査で、色誤認のリスクを測定します。 -
アノマロスコープ
色光を使って精密に色覚異常を判定する機器ですが、大学病院などでのみ利用可能です。
また、色覚異常を理解するツールとして色のシミュレータも活用できます。
スマートフォンで撮影した画像の色彩をシミュレーションでき、色覚異常の見え方を体験するのに有用です。
ただし、色覚検査アプリは信頼度が低く、疾患を見逃す可能性があるため、それだけで判断するのは避けるべきです。
6. 家庭でできるサポート
家庭での工夫
家庭でも、色覚異常の子どもをサポートするためにできる工夫がいくつかあります。
たとえば、色名をラベルに付けることで色を覚えやすくしたり、色だけに頼らず形や質感で判断する方法を教えることが有効です。
こうした工夫をすることで、子どもは自信を持って日常生活を送ることができます。
親としての心のサポート
色覚異常をどう受け止めるかは親として重要な課題です。
色覚異常は特別な障害ではなく、その人の一部として理解し、生活を左右するものではありません。
親としては、子どもに「これは個性だ」と伝え、肯定的に受け入れることで、子どもの自己肯定感を育てることができます。
7. 色覚異常と職業選択
職業選択における影響
現在、入学試験や就職時の色覚検査はほとんど廃止されていますが、色の識別が必要な職業においては制限が残る場合があります。
- 航空業界(パイロット、航空管制官):色覚検査が義務付けられ、赤や緑の識別が必要です。
- 鉄道業界(運転士、信号手):赤や緑の信号を正確に識別する必要があり、適性が制限される場合があります。
- 調理師、生鮮食品を扱う職種:肉や魚の鮮度確認、野菜の傷み具合、肉の焼け具合の判断が難しいことがあります。
- 精密な色合わせが必要な仕事(印刷・塗装・染色・服飾・画像処理など)では色覚以外の学力・体力・協調性・粘り強さ・責任感などを養うことがより一層重要になります。
例)色で区別される電線や抵抗器を扱う電気技師、皮膚科医、内視鏡・病理組織の専門医
看護師、臨床検査技師、カラーリングを取り扱う美容師 など
8. Q&A
Q1: 色覚異常は遺伝しますか?
A1: 色覚異常は遺伝する可能性があります。
特に赤緑色覚異常は伴性遺伝で、色覚異常の父親の娘が保因者となり、男の孫に発症する可能性があります。
直接の子どもに発症しない場合もあります。
Q2: 色覚異常に対する治療法はありますか?
A2: 先天性の色覚異常には治療法がありません。
しかし、色を見分けやすくする特殊メガネが販売されており、特定の場面で役立つことがあります。
ただし、完全な解決策ではなく、メガネを使用すると他の色が見にくくなることもあります。
Q3: 色覚異常が進学や就職に影響を与えることはありますか?
A3: 現在、進学や就職において色覚異常が制限されることはほとんどありませんが、職業によっては問題になる場合があります。
例:コンピューター画面の色のみによる情報分類が難しい、注文と違う色の製品を納入してしまう、仕切り線がない円グラフが読み取れない、充電完了ランプの色の変化がわからない、カレンダーの祝日が見分けにくい、といった場面で問題が生じることがあります。
9. まとめ
① 実際に職業を選択する際、色覚のことを職業適性の一つとして考慮しておくことが、長期的に見て効率的です。
自分の色覚異常が軽度だと思っていても、働き始めてから思わぬ問題に気付き、色覚外来に相談するケースも少なくありません。
自分の色覚特性や制度上の制限について、普段から情報を多く集めておくことが、就職の際の強い味方となるでしょう。
② 色覚異常が遺伝の要因となる場合でも、それが結婚や家族関係に問題を引き起こすことは避けたいものです。
家族や子どもの幸せは、色覚異常だけに左右されるものではありません。
夫婦間で前向きに受け止め、互いに支え合うことが、より豊かな人生を送るための鍵となります。
色覚異常を持つ人は、色が見えないわけではなく、独自の色の見え方を持っています。
混同しやすい色があり、問題が生じることは事実ですが、それらの問題を前向きに解決するためには、情報を多く取り入れることが役立ちます。
色覚異常を持つ子どもたちが、自分に合った選択肢を見つけ、充実した生活を送る手助けとなるでしょう。